新入生に黒白フィルムの現像について教えています。
対象は沖縄からやって来た新入生と長崎からやってきた新入生の二人です。
たった二人ですので、まるで、寺子屋のようです。
新入生に対しては「写真表現法」と云う授業で写真のことを教える機会があるのですが、この科目は講義科目で、私が実習で直接教えることは今年からなくなりました。
写真は頭の中の知識だけではだめです。
実際に作業をしながら会得していくことも多くありますので、実習も大切です。
ですから、学生からフィルム現像を見学したたいと申し出があったときに、二つ返事で了承して寺子屋を開いている次第です。
沖縄からやってきた学生は、高校時代から積極的に写真をやってきたようで、輝かしい実績をもっています。
しかし、これまではデジタル一辺倒で、銀塩黒白フィルムの現像については未知の世界のようです。
私は福岡の高校生の写真部活動に縁をもっていますが、ここでもデジタル写真が主流になってしまい、銀塩黒白写真を手がける学校は数えるほどになっています。
銀塩黒白写真の技術力は急激に衰え、デジタル出力されたプリントと並んだときに、銀塩プリントは見劣りがします。
高文連の写真コンテストの入選作品をみても、デジタルプリントに比べ銀塩プリントの入選数も激減しています。
そんな状況下で黒白銀塩写真に興味を持ってくれる学生は貴重な存在ですから、こちらとしても大切に育てなければいけません。
前回はフィルム現像液の準備から教えました。
粉末の現像液を溶解するのに、「蒸留水」を用いてやっていますが、その話をしたときに沖縄からの学生は何を勘違いしたのか、「雨水で現像液をつくるのですか?」と聞き直してきました。
一応、否定して蒸留水について教えましたが、私の頭の中では「雨水で溶いた現像液で現像したら、良いネガができるかもしれないな・・・」と、妙なことを考えてしまいました。
都会の薄汚れた空気の中を落ちてきた雨水ではだめでしょうけれど、沖縄には自然のパワーがいっぱいあります。
その自然の恵みである「雨水」で現像液を作る・・・なんとロマンチックではありませんか?
長崎からの新入生、こちらの方が高校時代から黒白銀塩写真をやっており、そのときから私も知っていた学生です。
黒白写真を本格的に勉強するために私どもの大学を選んでくれたと嬉しいことを言ってくれています。
長崎にある〔活水高校〕の写真部は、いまでも教育的な見地から暗室作業を続けておられますので、長崎は黒白銀塩写真の伝統を守っている学校が多いのかも知れません。
今回は最初のフィルム現像ですから、私が全ての作業を一通りやって見せました。
フィルム現像は化学反応ですから、きちんとやれば失敗する心配はありませんので、いつでも同じようにきちんと繰り返すことの大切さを強調して教えました。
学生が準備してきたのは、先日の「長崎ハウステンボス」で撮ったものでした。
殆ど全ての学生がデジタルカメラで撮影するなか、フィルムカメラで撮るとは、筋金入りの銀塩黒白写真好きなのでしょう。
このような学生と、教員生活も終わりに近づいた今、巡り会えたのも何かの縁ですから大切に育てたいものです。
しかし、これからの写真を考えたときに、デジタル技術のことも無視することは出来ませんので、デジタルでの黒白出力プリントも教えるつもりです。
将来、私のように銀塩からデジタルの方向にポイントを切り替えたとしても、暗室で培った能力は必ずデジタルでも役に立つはずです。
また、これからの四年間を暗室で過ごしたならば、素晴らしい黒白写真の作れる学生に育ってくれることでしょう。
今日の写真はデジタルで撮ったカラー写真を黒白写真にしたものです。
最初はカラー写真で、それを単純に黒白にしたものが二枚目です。
この段階での黒白写真は、単純に色を抜いただけ。とても銀塩黒白写真の調子ではありません。
そんなときに、暗室経験が豊富であれば、デジタルデータであっても黒白銀塩写真のような調子に仕上げることができます。
決して、暗室経験は無駄にはならないはずです。